「なんかねえ、ノリで済まされたような気もするんですけど、とにかく付き合ってるわけじゃないですか。それがね、なんかみょーに浮気性臭い気がするんですよ、竜のダンナ。どう思います?」

「我には関係の無いこと…。とはいえ、相談する先もなかったのだな貴様」

「うん、だってね、俺の周り竜のダンナを好いてるやつばっかなんですよ。真田の旦那をはじめとして、前田の旦那も、鬼の旦那も、右目の旦那…はちょっと違うかもだけど、とにかく周りそんなんばっかで、思えば竜のダンナってものすごい競争率高い人だったんですよ。他に誰がライバルだかわかったもんじゃない。相談なんかできなくって」

「我は安全だと…?」

「そんな気がします」

「ほう…。まあよい、我も最近退屈を感じていた所…。話くらい聞いてやろう。そのかわり手は動かせ」

「あ、はいはい。てかこの生徒会雑務多すぎじゃないすか?こんな冊子作り、どっか他の委員会使ってやらせればいいのに。俺ら企画だけで手一杯なのに。ていうか副会長のくせして竜のダンナはちっとも出席しないし。今日も俺と生徒会長しかいないって、どういうことなんですかね」

「黙って手だけを動かせ。全ては我が采配のうち…」

「手だけ動かしてたら相談できないじゃないですか。聞いてくれるんじゃなかったんですか」

「チ…。では聞こう」

「舌打ちした…。まあいいや。でね、そもそもそんな競争率高い中でなんで俺がダンナと付き合ってんのかっていうこと自体わりと不思議なんだけど、それでも俺最初はダンナ嫌いだったけど、やっぱ付き合ってるわけだし今はそれなりに好きだなーとは思うわけですよ。ダンナもダンナで、結構マジっぽく俺のこと好きだっつってくれたんですよ。それはそれで俺結構嬉しかったりして、そんで前よりは大分話すようになったし、遊びにも行ったりするんですけどね、」

「ホチキスの芯がなくなったぞ」

「ああ…確かこの辺に…ほら、あったあった。どぞ。そんでね?やっぱ付き合ってるわけだったらそれなりに色々気にするじゃないですか。あんま他の人とは遊ばないとか、スキンシップは控えるとか。そうじゃないですか?」

「伊達はそうでないと申すか」

「まあ平たく言えばそうなんですよ。や、でもね、誤解のないように言っておくと、多分ダンナ自身は無意識だと思うんですよ。無意識つったってあんだけ頭よくてめざとくてもういやらしいくらい抜け目がない人だから、そこまで無意識ではないのかもしんないんだけど、俺からしてみると、どうも最近俺以外の人と話したりとか、遊びに行ったりとか多いなって。むしろ付き合う以前のがダンナ身持ちがかたかったんじゃないの?ていうぐらいで。ていうのは、ダンナは殆ど周りからのアプローチをうまーくさらっと流してたからね、それまでは」

「そうか…ふう、なんだかダルイな」

「そうなんですよ。…っては?ダルイ?手動かしてって言ったの生徒会長じゃん!ちょっとなんか優雅に寛ぎはじめるよやめてよ!なんか俺かわいそう!俺かわいそう!」

「黙れ我が駒よ。話だけは聞いてやっているではないか…。それ、手が止まっておる」

「え?うん、はあ、ごめんなさい…。じゃなくて!あんたの駒じゃないんですけど?!あー、もう俺って人につかわれるの上手だよねえ。真田の旦那もいつまでたっても自立してくんないし…。ていうかほんとに俺の話聞いてました?」

「近頃の伊達の動向が気になるという話であろう」

「まあ、一言で言えばそうですよね…はは。なんか、この前は鬼の旦那と海行ったとか言ってたし…。つってもまだ寒いしそのへんぶらっと散歩しただけなのかもしんないんですけど、それにしたって二人っきりで海周辺に出かけるとか、それ、結局デートみたいなもんじゃないですか。そういうこと割と平気でするんですよ、最近。俺もバイトとか入ってて割りに忙しいから、俺との約束断ってまでとか、そういうことはないんですけど」

「なら平気ではないか。どちらに不都合が生じているわけでもあるまい…」

「いや、それは物理的な問題でしょ?俺はなんつーか、やっぱ誰かと遊ぶなら団体で遊んでほしいし、別にメールとか電話とか、そんなとこまで介入する気は全然ないけど、んでも自分のこと好きなやつが遊びたいっていうんなら、それってもう目当てバレバレじゃないですか。てゆーかあわよくば横取りできたらなあ、とか考えてそうなやついっぱいいるし。俺そういう修羅場みたいなの苦手だしめんどくさいしねえ、そういうのなんつーの、きちんと避けてほしいっていうか、自衛してほしいんですよね」

「ならば伊達にそう言えばよかろう。手が止まっていると幾度言えばわかる?」

「あーあー、すんません、ごめんなさい。つーかやっぱ二人でやったほうが絶対早いですよ〜…って、目逸らすし。あれっ、いつの間にコーヒーなんか出てきたの?てか俺の分は当然のごとくないわけ?あ、もうわかりましたって。睨むのやめてくださいよ。なんかそういうとこちょっとダンナに似てますよねえ、生徒会長。ほんでなんだっけ?ダンナに直接言えって?生徒会長さあ、なんか前提勘違いしてると思うんだよね。最近気付いたけど、俺、すんごい、ヘタレなの。そんなこと言って、『お前俺を束縛する気か〜』とか、『俺の愛を疑うのか〜』的な意味のことをあのうまーい口車で言われたら、その理屈が間違ってても俺納得しちゃいそうだもん」

「飽きたのではないか」

「あー、飽きたねえ。ダンナならありうるなあ、うんうん、って、……え?なに?」

「伊達が、貴様に飽きたのではないかと言っている」

「……」

「今まで誰とも浮いた話のなかった伊達が、特にアプローチもしなかったお前と付き合ったのは、周りに自分が好きだ惚れたと騒ぐものばかりであったが故の、未知なるものへの好奇心であった…。とすれば、付き合いはじめてみて、貴様に大した魅力も感じなくなったとしてもなんら不自然ではあるまい。所謂『相手を落とすまでが楽しい』…というものであろう」

「え…そん…そ、そういうもんかなあ」

「辻褄が合うであろう…。貴様に飽きたが、別れたとしても元の状態に戻るだけ…。あの新しいもの好きの伊達のこと、『彼氏持ち』という新しい条件下での楽しみを模索し始めたとしたら、今まで見向きもしなかったものにわざわざ構い始めた理由も合致しよう」

「うわ〜…、なんかすげえ的確〜…ってか、俺今あんたに相談したこと心の底から後悔しはじめてるんだけど…。え?ちょっと待って?それじゃ、俺ダンナに利用されてるってこと?ダンナはもう俺に興味ないってこと?え?なに?付き合わなきゃ興味あるけど、付き合ったらもうつまんねーってこと?そゆこと?」

「……泣いているのか」

「え?泣いてないよ。泣きそうだけど。だってなんかすげえありそうな話なんだもん。ダンナって演技うまいしさあ、人騙してすげーケラケラ笑ってる場面とか結構見てきてるしさあ、俺がその対象にないっていう保障とか、よく考えたらどこにもないわけだよね。いや、つーかね?生徒会長、俺結構ダンナの事好きとかつったけど、ほんとはなんか、割と本気っつーか、ぶっちゃけた話ダメなんだよ俺。だってダンナにはじめて好きだって言われたとき、びーびー泣いてたもん。どんだけ好きだって話だよ。嬉しくって。ダンナが俺を選んでくれたのがほんと、本気で嬉しくってさあ。だってそゆこと言わなさそうじゃん、あの人。けど俺には言ってくれたんだーって、まじでほんとに…」

「……伊達、何を突っ立っておる」

「ウソォォ!!??がっ、いたっ!膝打った、膝、いたっ!ってうわ、ほんとにいるし!」

「よう」

「えー…えー…あの、どっから聞いてたりしました…?」

「んだこの冊子。こんなん今暇な委員会くさるほどあんだろ、そっちにまわせ。あとな、校長に例の企画会場の取り付けと、ついでに予算引き上げも承知させたから、前予算不足で没になってたやつ使えるぜ。まあ現行の企画に回してもいいけどな。そのへん元親ともきちんと話し合っておけよ。あと殆ど活動してねえ部活は、前も言ったが厳重注意してから一ヶ月、活動に変化が見られなかったら廃部っつーことで話進める。反対がなきゃ今日中配済ませるが?」

「ふん…無駄な金を使わせる余裕はない…」

「OK、んじゃこの勧告用紙、10枚くらいコピってこい。んで各掲示板に張っとけ。場所がなくても生徒会の指示は最優先だから上に張っちまえよ。画鋲はてめーの後ろの棚の上から3番目の引き出しの左側に入ってるはずだ。あ、画鋲抜きも一応持ってけよ。画鋲といえど経費かかってんだから、無駄にすんな。よし、俺は帰る」

「うわ、うわ、完全無視?ちょ、待って、まって…」

「はあ?何だよ。なんか用か」

「用っつーか、ほら、俺、さっき質問したじゃない」

「そうか、悪い、聞こえなかった。それより今の俺の指示聞こえてなかったか?お前に言ったんだぞ」

「え、ご、ごめん聞いてなかった。や、聞いてたけど、それよりあの、なんでそんな冷たいんでしょうか。や、冷たいのは大体いつもそうだけど、え?なんで?ひどくない?俺なんかしたっけ?あんた傷つけるようなこと言った?」

「what...?じゃあもう指示はいいから、荷物持ってついてこい。帰るぞ。元就、俺がさっき言ったことやっておけよ。期限が延びれば延びるだけお前の嫌いな無駄金使わせるだけだからな。ま、俺はいいけど」

「え…じゃあ、生徒会長、お先にごめんね。つかこれ、修羅場かなあ、ごめんねえ、変な話して」

「ふん…」