「はよーございまーす。って今はおやつの時間だけどねー。遅刻してすんませーん」 「………貴様その顔はもしかしてギャグなのか」 「あんたはおもしろいつもりかもしれないですけどそれを聞くのはあんたで百万人目です。言っとくけど俺別にマゾとかじゃないよ!?断じてね!真田の旦那と一緒にしないでよ!?それでもあえて俺をマゾと呼びたいんならこう呼べ!微妙なマゾ略してビマゾとね!発音は美白と一緒だからね!ははははは!」 「了解したビマゾ。それはギャグなのだな」 「………だってさー、ダンナったら本気で殴るんだもん。そりゃ顔半分ぼっこぼこに腫れますって。一発食らっただけなのにさー、なにあの馬鹿力信じらんない。真田の旦那がライバル視して惚れ込むのもわかるわ。今思えば俺とんでもないのにひっかかったんだよね。だって考えてみ?そもそもあの人の背後になにが付いてると思う?泣く子も黙るヤクザ顔した給食のおじさん、片倉小十郎だよ?『政宗様の背後は俺が守る!』はいいけどさ、実際片倉さんがやってることって何よ?俺にガン付けつつ俺の配膳だけ極端に少なくして、逆にダンナの配膳はてんこもりにするとかそれくらいよ?結局後からダンナが俺に分けてくれるんだから意味ないのにねー。えへへー。つっても一応ダンナの身内だからないがしろにはできないよね。そうそう、だからつまり、ダンナと付き合うとまず小姑が付いてくるってわけだよね」 「してビマゾ、貴様は一体会計報告をしに来たのか、惚気にきたのか、どちらだ」 「あ、報告はするする。昨日夜中にエクセルで頑張ったから、さっさと判押しちゃってね。ほんでこれ職員にまわるんだっけ?あと今日はなに?企画の話し合いだっけ?だったら今日こそは企画部長とか副会長とか書記とかも来んじゃないの?なんでかいちょーしかいないの?」 「一度に聞くな愚者め。奴らが貴様より遅刻しているだけの話だ」 「なーんだ、謝って損した。んじゃ今のこの時間って俺ら暇なんじゃん?あ、そういや気になってたんだけどさ、かいちょーってさあ、鬼の旦那と幼馴染なんだ?」 「あれを腐れ縁と言うのだ」 「はは、確かにそれっぽいよねえ。でもかいちょーが子供の頃とかどういうお子様だったのかちょっと想像つかないかも。え?なに?既に一人称は『我』?二人称は『貴様』?うわ、ヤなガキだなー」 「そういう貴様はなんの面白味もなさそうな幼少期を送っていそうだな。そういえば初恋はあの上杉先生を慕うあれだと聞いたが」 「かすがのこと?あー、確かにねえ、そういう時期は俺にもあったよ。懐かしいなあ。幼稚園とか小学校の頃だなあ。俺が追っかけまわすとさー、すんごい勢いで逃げんのよー、あいつ。まあさ、そういう反応自体が楽しくて追っかけてたとこもあったんだけどね。あ、お約束のあれはやったよ!スカートめくり!いやあ、俺様うまかったからね、スライディングしつつパンダのぱんつ拝んだりとかできたよ。後でぼこぼこにされたけどね。そんでもその頃までは仲良かったのにさあ、中学上がって急によそよそしくなったんだよね。あれが思春期ってやつだったのかなあ。もう高校上がったら全然、俺が話しかけても『死ね!』って勢いで睨んでくるからね。上杉先生に見られたらどーする!とかすんごい顔で言われた。あれはちょっと泣けたね。ていうかかいちょー」 「なんだ」 「今日いやに俺と普通に会話すんね。ひょっとして俺に惚れた?」 「焦げるか?」 「あははは、うそうそ。じょーだん!いやいやいや、じょーだんだつってんでしょ!何取り出して来てんの!?マッチ一本火事の元!!ぎゃー!!!やめやめやめ!!焦げたくない!焦げたくない!!!」 「二度とくだらぬことを言わぬと誓え」 「誓うわボケ!!豊臣秀吉破竹の出世の勢いで誓うわ!!あーもうなんて物騒なんだよあんたは!!」 「ビマゾには丁度よい刺激であろう」 「うふふふ…ちょーっと殺意湧いちった、俺様。え?なに?泣いてないよ?火が熱くて目が乾燥しただけだよ?……まあまあ、ともかくね、そういうことしたよねーってことだよね。あ、かいちょーはしないか。え、何その思案顔は?やったことあんの!?かいちょースカートめくりやったことあんの!?」 「貴様、あの長曾我部のクソの幼少期のあだ名を知っておるか」 「え、そんなの知るわけないじゃん。なんてーの」 「姫若子だ」 「ひめわこ。へーえ?随分似合わないあだ名だね」 「奴の幼少期の趣味は女装だ」 「へーえ。また変わったご趣味で。…ってええええええェェ!!??マジで!?なにその初出の情報!あ、だから姫若子ってんの!?うわー!!すっげー!!だって今あんなアニキでむきむきでイケイケの眼帯ヤローなのに!?うわーうわー意外すぎる。程がある。え?もしかしてアニキって言ってもむしろそっちのアニキなの?ガチだったりすんの?」 「さあな。案外無い話でもなかろう。とは言えあれは今でこそああだが元々顔立ちは中性的なのでな、女装をするとなんら普通の女子と変わりなかった。しかも今でこそああだが性格は内気で引き篭もり…唯一の遊び相手が我だったと言うわけだ」 「は…ははあ…そいつァまた意外な話だね。つーか俺今度から鬼の旦那を見る目が変わっちゃいそう。ってもうすぐ来んじゃないの!?うわ、変に緊張してきた。え、てかちょっと待ってよ?その話の流れだと、かいちょーがスカートめくりしたのってもしかしなくても」 「というかむしろ我は奴を長いこと女だと思っていた」 「………!!!!」 「……おい、うずくまるのは勝手だが備品の椅子を叩くのはやめろ。とにかくそういうわけでな、我は奴が今のように変わったことがどうしても解せぬ。あたかも自分が常人であるかのように振る舞いおって…」 「ひい、苦しい…。あ、あのさ、もしかしなくても、かいちょーの初恋って、その、ひめわこだったりすんの?」 「……貴様、女だ女だと思い扱ってきた人間がれっきとしたモノの付いた男であると知った時の絶望がわかるか?奴め、何度我に『わたしおんなだもん』などと嘘八百を述べてきたことか…!以来奴の言うことはさっぱり信用できぬようになった。それが今したり顔でよく我に偉そうなことを…。チ、やはり話してみても気が晴れるものではないな」 「初恋は実らないって言うけどさあ、そういう破れ方って、ひい、お腹痛い。な、ないよね…。ていうかかいちょーが鬼の旦那に極端に冷たい理由のほぼ全部がこれでわかった。そりゃ、そりゃ、ていうか、どう接したらいいのかわかんなくなるよね、そんなの。あ、でもさ、もしかしてひょっとして、今でも好きだったりすんの、かいちょー」 「…………解せぬ」 「だよねえ、簡単に嫌いになれるってわけでもないよねえ。そっかあ、かいちょーにもそんな悩みがあったのかあ…。話してみたってのはさ、やっぱ俺もそれなりに信用されてきたってことだよね。なんか嬉しーわ。今まではさ、さんざん俺が相談してきたわけじゃん?俺もちょっとくらい手助けできるかもよ、鬼の旦那とかいちょーの関係改善に。改善にね…ひい、駄目だ、ほっぺ痛い。だってやっぱこれ笑い話にしか聞こえない。うわ、ごめんごめん!かいちょーが真剣なのはわかってんの!駄目なのは俺のほっぺなの!ぎゃー!!それはだめ!生徒会室でそれはだめ!!!」 「……とにかくだ」 「…………うん、そう、しまってね。ていうかそんな物騒なもんここに置いといちゃだめだよね。後で撤去しとくからね、業者さんに頼んで」 「この間奴が家に上がりこんできたのだ。その際貴様と伊達のことを引き合いに出してぶつくさ言い腐るものでな…さすがの我も癇の緒が切れるというものだ」 「うん、そーね、今ならその気持ちわからんでもないよ。だってねえ…。うん、いちいち言うのはやめとくけど」 「………ところで貴様、伊達とはその後どうした。近頃話を聞かぬが」 「あ、そっか、話してなかったか。惚気はしてたけどね。気になる?だよね、逐一相談してたわけだしね。ごめんごめん。うんまあ、この顔見ればわかると思いますけど、殴られましたよね。てめえ何一人で勝手に悩んでシカトぶっこいてくれてんだゴラァ!ってね、右ストレートですよ」 「ということは言ったのか」 「まあね。さすがにかいちょーと鬼の旦那の二人から同じ事言われれば、まずったってわかりますって。まずは一週間近くもシカトしてたこと謝って、そんで俺が思ってたこと言って、と計画しながらダンナの家に行って随分待たされて、やっと出てきたと思ったらさっきの台詞で右ストレートですよ。……つーかある意味、鬼の旦那の言うとおりだったってことなんだけどね。結局相当イライラさせてたから。つか、ダンナ泣いてたしね。本人否定すると思うけど、俺様無駄に動体視力いいから、見えちゃってね」 「よお、楽しそうな話してるな」 「ウソオォ!!?ってなんだ鬼の旦那か。もー、びっくりさせないでよもー。遅刻だよ遅刻ー。あやまんなー」 「そおか?ホームルーム長引いちまってなあ。わりいわりい。つーかなんか悪いけど、政宗もいんだよな、ほら」 「よう。どうやら殴り足りなかったみてえだなあ、佐助?誰が泣いてたって?Ha?元はと言えばみんなてめーが悪いんだろうがあ?俺にだって友達付き合いのいい時ぐらあらーな!それをぐだぐだ悩みやがって、顔の原型わからねえようにしてやろうか!?ああ!?」 「成る程、呼び名は昇格したというわけか。……おいカス長曾我部、神聖なる生徒会室に入るなと何度言えばわかるのだ。貴様の脳は猿以下か?」 「照れ隠しに殴ろうとすんのやめてくれる!?俺様一応男前で通ってんのに!その話はもうさんざしたでしょ!お互い悪い所があったよねって和解したでしょ!」 「カス長曾我部!?そいつァいくらなんでもひでーぜ元就!だから俺企画部長だっつの!」 「照れ隠しだあ…?隠すような照れは生まれてこのかた持ったことがねーな、俺ァ!どうもてめーの浮かれ具合を見るに反省の色がねえようだ。よし、一発殴らせろ。しつこいのは嫌いだが、どうにも腹の虫がおさまらねえんでな…」 「長曾カス、もうなんでもいいからとにかくそやつらを座らせろ。ここは神聖なる生徒会室ぞ。それを戦場にする気か?……して猿飛、貴様の方は呼んでやらぬのか」 「長曾カスってなんだコラァ!!いくら温和な元親さんでも名字に誇りくらい持ってんだぜ!?つーか政宗もやめとけ!てめーがここで暴れたら何も残らねえだろうが!」 「そうそう、神聖なる生徒会室で暴れちゃだめ!いい子だから!ね!……政宗!」 「お、止まった」 「頬を染めおったわ。乙女か貴様」 「What a foolish guys...!I ganna kill you someday!」 「いつか殺すってよ」 「そーだね、俺が70のおじいちゃんになったら殺してね。さ、座った座った。話し合い始まんないから」 「お、今のさらっとプロポーズだな。しかし話し合いつっても書記まだじゃねーのか?ったくよお、アイツいつも何してんだ?」 「捨て置け。くだらぬくだらぬ…。猿飛、あと一つ聞いておらぬぞ」 「え、なに?ほらほら政宗、俺の隣座ってね。なんだっけ?あ、そーか、明智さんの話か。そうそうアレねー。政宗ーアレの話していいかなあー?ほら、政宗が明智さんと保健室で話してたやつ」 「ああ、あれか?別に大した話じゃねえだろ、あんなの」 「いや、あれが引き金で俺シカトぶっこいてたんですよ?結構重要じゃない?ていうかあんた自分が話されたくないだけじゃない?いてててて、ひゃいひゃいわひゃったから。まあいいや、あのね、政宗が傷ついた顔した原因はですね、要するにこれなんですよ。毛利元就相談所に、俺が相談してたってのが」 「何が毛利元就相談所だ。……しかし解せぬ話だな。伊達は猿飛が相談していたのを知っていたと?」 「それがねえ、かいちょーびっくりするよ。俺政宗が風邪引いてて耳が聞こえなくてどうのこうの〜って話したじゃん?あれね、全部嘘。この人の創作。作り話。耳全然健康。風邪も引いてないの。しかも一番最初に俺が相談した時、政宗途中で来たでしょ?かいちょーびっくりするよ。なんとこの人割と話の最初の方から外で盗み聞きしてたんだって!うわー、さいてえ、政宗。んでタイミング見計らってさも今来ましたな風に入ってきたんだよ。べらべら喋り立てて煙に巻いて、そんで帰りに俺にあんだけの嘘吐いて何事もなく過ごしてたんだよ!わーすごい。政宗ったらだから友達少ないんだよねえ。イタタタタタ、足、指の付け根踏むのやめて!」 「政宗、そりゃねえよ…。イテテテテテ、足の指踏むのやめろ!」 「ふむ…やはり使えるな、貴様は。して、それがどう繋がる?」 「イタタタ、うん、そんでね、政宗が入るに入れなかったのも一応わかるっしょ?だって当の本人の話題だったわけだしね。俺は政宗を疑ってたわけだし。その話がかいちょーの台詞でだんだん不穏な方向に行ったわけでしょ。俺が飽きられたんじゃないかとか。それでさすがにやばいだろと思って政宗は入ってきたわけですよ。で、そしたら俺がなにやら恥ずかしい事言い出したと」 「恥ずかしい事?」 「こやつ、自分が伊達に好きだと言われた時の心境を切々と語っておったのだ。伊達にとっては確かに恥ずかしい話であろうな」 「あー、そりゃあ恥ずかしい…イテテテテテテ、だからなんでそういう痛い所をピンポイントで踏めるんだよ!!」 「そう、そういうわけで、俺に言葉をかけるのもままならなかったと。本当は恥ずかしさが半分と、俺の言動に若干引いてたのが半分だったと思うんだけどね。…ってこれ俺も言ってて痛いなあ。そんなわけであんな態度だった政宗さんは耳の聞こえないフリまでして俺に大嘘吐いてなんとか事なきを得たというわけですよ。それはともかくね、俺がかいちょーに相談してた内容聞いちゃってたわけだから、自分が疑われてるって知って、柄にもなく落ち込んだの、この人。なんかそういうとこあんだよねえ、政宗って。普段は自分の主張も主義もきちんと通すのにさ、そん時は何をするでもなくただ単に落ち込んで、そんで俺と政宗はお似合いじゃないのかもなっていう本音が明智さんとの会話で出ちゃったと。わからなくもないんだけどさ。結局それで事がこじれて、あとは会長も知っての通りなわけ。まあ似合わないっていうのは撤回させたけどね!全力で!イタタタだからイタイってば!!」 「佐助と元就が言った事で政宗が落ち込んでその落ち込んだ政宗の言葉を聞いて佐助が落ち込んでその落ち込んでる佐助にシカトぶっこかれてさらに政宗が傷ついてってわけか?おめーらアホじゃねえのか?」 「まあでもストレート一発で片付く程度に済んでよかったよ。あれでまだ俺がうじうじしてたらもっとこじれてただろうしね。まだきちんと話し合えるレベルだったわけだし、そう思うと結局かいちょーとひめわ…じゃない、元親さんのおかげとも言えなくはないよね。それは素直にありがとうって言っとく」 「……元就、佐助に何吹き込んだ?」 「黙れカス。今は猿飛の礼に胸を一杯にしておく場面であろう」 「……ったく、くだらねーことをぐだぐだと…。もういいだろこの話は。結局誰が悪かったとかじゃねえんだ。俺らの間では片ァついてんだから一件落着、で終わらせとけばいいんだよ」 「さっき俺を殴ろうとしてたのは誰でしたっけね」 「……佐助、言葉ってのは大事だな。一言の失言が尊い人の命を奪う時もある」 「へーへー、屁理屈屋の政宗には敵いませんね。けど今回はあんたの分が悪いよ?」 「負けとけ負けとけ!つーか本気で書記来ねえ気か?もうはじめちまおーぜ、なあ元就」 「……チ…。仕方あるまい、さっさと終わらせて帰りはこのカスがドーナッツを奢るそうだ」 「なんだそりゃ。しょーがねえなあ、なんでも奢ってやるよ、二人の仲直り記念にな」 「なんでもらしいぜ、佐助?元親、言葉には気をつけろよ。佐助は奢ってもらうとなったら遠慮を知らねえ」 「はは、いいってことよ、めでたいことに糸目付けてちゃ損だからな」 「お、気前がいいねえ〜、さっすがアニキ!俺も政宗も甘いの大好きよ?つーかかいちょーはわっかになってるもんが好きだよね。日輪っぽいから?」 「無論。ではカスよ、進行の決定表を…」 「つーかカスって言うな!!」 毛利元就相談所 おわり |